きせつそば【季節蕎麦】
    参考リンク   たねもの【種物】


旬の材料を使って季節感を打ち出した種物。
白魚そば、若竹そば、松茸そば、あられそば、牡蠣そばなどがある。鴨南蛮も本来は寒中だけの季節そば。

柴田書店 「蕎麦の世界」より 
   四季のそばと薬味    薩摩卯一

     春麦秋冬、旬の素材をそばに生かす
  

     四季のそば
                                          
晩春から初夏の候は、瀬戸内のいわゆる「魚島」(うおじま)の季節である。桜の花が散ると、産卵期を迎えた大群の鯛が、小豆島や河島(兵庫県)沖に現れ、それはまるで海中に突然″島″が浮き上がったかのように思えるところから、漁師たちの間で魚の島つまり魚島と呼びならわされてきたものだが、八十八夜の頃から、それは最盛期となり、明石、鳴門、鞆(とも)など瀬戸内海のいたる所で、鯛の乱舞が見られるようになる。
               
この季節、魚島の鯛を中心に鰆(さわら)や穴子など脂の乗った旬の魚貝類が、京阪神の食膳に大量に出回るわけで、″天神さん″で親しまれている大阪の天満宮では、五月中旬に「真奈(まな)祭」や「包丁式」 の神事が行われるのも、季節の鯛を神に捧げて豊かな恵みを感謝するとともに、豊漁の祈願を込める由緒深い仕来りで、まさに魚島ならではの季節感あふれる神事といえよう。
魚島の鯛が出回ると、大阪の商家では目の下一尺(33p)もある活鯛を、日ごろ世話になっている得意先とか親類縁者に贈る習慣があった。鯛こそは姿といい輝く色彩といいまた味といい、まことに海の王者たるにふさわしい。めでたい佳肴として、贈答や祝いの席には必ず登場するのも、品格と同時に一般市民にとっても最も親しみ深い魚であるからであろう。
瀬戸内の風習にも、この鯛の姿焼きに、そうめんとすだちを盛ったもてなしがある。結婚の披露宴で、大タライに盛り込んだ、″鯛そうめん″を仲居さん二人がかりで持ち出して、宴席の客に一々見せて回ったあと、改めて一人前ずつ皿に取り分けて出してくれたことがあるが、鯛とそうめんというのは嬉しい取り合わせである。
とにかく、鯛という魚は刺し身にしてよく、焼いてよく、蒸してよく、煮てもよい。どう料理しても美味しいもので、あしらうものによって、その味も一段と引立つものである。

  

初 夏

   (一) 鯛そば

渡辺一雄先生に教わったもので、鯛茶のそば版とご理解頂ければいい。季節の鯛とそばの風味がマッチして、まことに口中爽やかな味わいが楽しめる上品な料理といえよう。
作り法は、まず平造りの刺し身を、酒、醤油同割のつゆにくぐらせる。次に客席用の小コンロに、土瓶に淡味のかけ汁を入れて乗せ、燃料(固型アルコール)に点火する。
小鉢には、湯通ししたそばを少量入れておく。このそばの上に、つゆをくぐらせた刺し身二切れを乗せ、土瓶の熱いかけ汁をかける。薬味はワサビ、荒ずりのゴマ、海苔など好みに応じて添える。
この鯛そばは、少量ずつのそばで、何回も″お替わり″をして賞味するのが美味しく頂けるコツである。

   (二) 信州蒸し                     「
 
信濃蒸し、そば蒸しともいう。鯛などの白身魚にそばをはさんで蒸すところからその名がある。
刺し身でなく、薄塩をした鯛の切身(甘鯛、すずき等を使ってもよい)を焼き、蒸したそばと共に椀に入れ、清汁をかけ、大根おろし、ワサビ、白髪ネギ、もみ海苔を薬味として頂くのも美味しい。また、鯛の切身を焼くのでなく、そばと一緒に蒸したのも美味しいものだ。

   (三) そばごはん
 
鯛の腹皮や中骨の付いた切身をまず白焼きにしたあと、身をほぐす。小茶碗に、底から小量の御飯、鯛のそぽろ、御飯、鯛のそぽろの順に入れたあと、一番上にそばを薄く置いて蓋をする。
この小茶碗を強火で五分間蒸す。蒸しあがったところで、吸物よりやや濃い目の汁をかけ、蓋をして出す。薬味はわさび大根(おろし大根とわさびをまぜ合わせたもの)、刻みねぎ、のりなど。
また、御飯を使わず、ほぐした鯛の身を鉢に入れた熱いそばの上に乗せ、かけ汁には三つ葉を入れて沸騰させたものを、その上からかけて出すのも美味しくいただける。この場合の薬味はわさびがよく合う。


  (一) 穴子そば

これは、かけそばに付け焼きした穴子を乗せる簡単なものだが、穴子は大き過ぎると、骨も太くなるので生で130c、焼き上り60cくらいのものが良い。
穴子を焼くときには、皮のヌメリをよくコソゲ取ることと、かけ醤油の調整が大切なポイントになる。薬味には粉山椒がよく合う。
  
  (二) 鱧ちりそば
                                
梅雨どきから秋にかけて、大阪湾から瀬戸内にかけての鱧(はも)は旬となる。
昔から関西の大衆魚として親しまれ、とくに大阪の夏祭りには欠かせぬ魚であった。夏のうどんすきに活鱧の500〜600cのものを使うのもよい。
鱧ちりそばの作り方は、かけ汁用の汁に酒少々と味淋2、3滴を落とし沸騰させる。細かく骨切りした鱧(包丁10回くらいで切り落とす)五切れを、沸騰したかけ汁に入れて、八分通り鱧に火が通ったころを見計らって、温めたそばにかけ、形を整えて出す。
薬味は刻みネギとおろしショウガ。エンドウ豆か軸ミツバの緑色野菜と椎茸を添えると色どりも美しい。心得としては、活鱧に火を通しすぎないことが大切である。
この他、鱧を使ったものとして骨切りした鱧を、ごく淡い塩をふって焼き、これを同じ要領で出すのも一つの方法である。
また、骨切りした鱧を、そばと共に強火で5分間あまり蒸しあげ、八方汁をかけ、蓋をして供する。薬味は浅草のり、わさび大根、ねぎ。鱧には不思議なことに梅干と相性が良い。これらの鱧の上に、えくぼのように裏漉しした梅肉を。


    熱もり
 
秋から冬にかけては、新そばも出回り、香り高い、美味しいそばの季節になる。そばとしては″ざる″が最高であるけれども、暖かいものも喜ばれる。
ざる用のつゆを徳利に入れて湯煎して熱くし、茹で上がったそばを、もう一度沸騰した湯にくぐらせる。ざるそばのようにして食べるが、つゆの中に生玉子やとろろを落とし込むのは、栄養のバランスからも良いことだ。釜揚げそば・地獄そばなど、茹で湯と一緒に出すと、そばがさめにくいが、つゆが淡くなりやすいのが難点だ。


   (一) 鳥・鍋物とそば

鴨なんばんは昔から親しまれているが、鴨に限らず、鶏(かしわ)・雉なども捨てがたい。鳥ガラのスープで、これらの鳥肉と季節の野菜などを煮込んだものは、素朴でしかもしゃれた味がするものだ。胡椒が合うだろう。
また水炊きやしゃぶしゃぶなどには、ボン酢や胡麻だれなどが喜ばれるが、そばやうどんには、残念ながら強いボン酢は適さない。別の猪口に取って、鍋のスープとそばつゆ(ざる用)をちょっと落として食べる。鳥肉はボン酢で食べ、好みによってはそばにも数滴ボン酢を落として、いくつもの味を楽しむのもよいだろう。
なお、鳥すきなどの残った汁に、うどんをからませるのはよくすることだが、最後にではなく、途中で″箸休め″のように味わうのも乙なものである。

   (二) あんかけ

葛をひいたあんかけ、それに玉子の入ったけいらんはよく知られた献立で、冬によくまた消夏法としてもいい。風邪ひきにもよく効く。
鶏肉を細かく刻み(またはミンチがけ)、鍋に酒少々煮立せた中で煎りつける。それにかけ汁、刻み椎茸を入れ、沸騰したら、水ときの葛を濃い目にとき込んで湯ぶりしたそばにたっぶりかける。
色どり、歯ざわりの良い野菜もせん切りにして加えたい。酒だけでなく胡麻油を数滴はじめに落とすと香りもよい。おろしショウガとねぎがよく合う。また、春には小蛤もよく、焼き穴子をきざんだあんかけでもいい。


   (一) 若布そば
 
若布(わかめ)、小蛤そして竹の子などは春から晩春にかけての自然の恵みである。とくに若布はそばと実によく合う。
かけ汁は淡口醤油で味を整え、若布をたっぶり入れる。その中に下味をつけた竹の子を薄切りにして五枚ほど加え、これをそばにかける。若い人には、鶏肉を二切れくらい添えるのも喜ばれる。薬味は木ノ芽を五、六枚。そばといい若布といい、自然の恵みはまさに健康食品である。季節感あふれる春の種物としてどなたにもお奨めしたい。
   
   (二) かぎ揚げおろし、にぎわいそば

四季を問わず楽しめる味を二つ紹介しよう。
まず、かき揚げおろしは、おろしそばの変型といえるもので、厚さ1p、直径5pくらいの大きさにした海老のかき揚げと、菜の花、青唐がらしなど季節に応じた色目のよい青野菜を別皿に盛る。
鉢にはそばだけを入れて、そばつゆと薬味(ねぎ、大根おろし)は別の器に入れて供する。夏はそばも鉢もよく冷やし、冬は逆にそばもつゆも熱くして。

にぎわいそばは盛岡の″わんこそば″を関西の材料をもとに別の演出で供するもので、食べ放題で女性が付き添って空いた椀にさっと一と口量のそばを入れる演出に変えて、十数種の種をやや薄目のざるのつゆで少量ずつのそばと共に味わえるようにした。
わんこそばではせいぜい四、五種のかやくだが、にぎわいそばは十数種、そばは割子に入れて次々と空いた容器を積み上げる楽しみを考えている。種は鱧ちり(または刺し身)、天ぶら、おしたし、とろろ、イクラ、鳥そぼろなど次々に出てくる。
薬味は海苔、削りかつお、もみじおろし、ねぎなどを添える。刺し身が出る時は紫蘇もよく合う。
このにぎわいそばは、土地土地の名物や季節季節の魚、野菜を少しずつ加えれば、まことに楽しい味のにぎわいを賞味できるだろう。